2013年10月4日
日経に「首相、周到に議論主導」が書かれている。
「安倍晋三首相が消費税率を予定通り2014年4月から8%に引き上げる決断をした。経済対策では景気腰折れ対策にとどまらず、法人実効税率の引き下げで政権の最重要課題であるデフレ脱却に道筋をつけたいと、強いこだわりをみせた。政策決定を自ら主導。戦術を周到に組み立て、押し切る形で決着させた。
<法人減税、与党押し切る>「功罪すべて負う」
『いついかなる政権がつくった政策であろうとも、すべての功罪は時の政権が負うんだ』。8月、首相は甘利明経済財政・再生相にこう語っていた。消費増税は12年8月、当時の野田佳彦内閣が民主、自民、公明の3党合意に沿って関連法を成立させ、決まったことだ。しかし、首相は自身が納得できる決定をめざした。
『こんなやり方もあるんだね』。8月上旬、首相官邸の執務室。経済産業省が中心にまとめた消費増税に備える経済対策のメニューを眺める首相の目に留まったのは、14年度までの復興特別法人税の前倒し廃止だった。
当初は麻生太郎副総理・財務相も被災地の反発を招きかねないと懸念していた。首相は9月18日、官邸で2人きりで会った際『被災地を不安にさせたりしない。すべてを解くカギは、デフレを脱却して強い経済による好循環をつくることだ』と説き、麻生氏も折れた。
首相の意向を受けた甘利氏が復興法人税廃止などの方針を与党幹部に正式に伝えたのは、決定の1週間前の9月24日だった。首相周辺は『要所では与党側に丁寧に説明していた』と話すが、公明党の山口那津男代表は『もっと早く教えてくれれば』と残念がった。『政高党低』であるとともに、首相1人の意向が政策決定に強く反映される政権構造を浮き彫りにした。
<判断延ばし対策引き出す>「財務省認識足りず」
『景気回復を実感してもらうには賃金上昇につなげなければいけない。本来はやってはいけないことでも、やれることはなんでもやる』。首相は世界の主要国に比べて高い法人実効税率の引き下げに照準を定め、『まず単年度の復興法人税の前倒し廃止。景気回復の増収分で財源は賄える』と着地点を見据えた。
その一方、財務省の経済対策への動きは鈍いと感じた。首相は『法人減税をやれば一時的に税収は下がるが、財務省には産業の足腰が強くなれば税収が回復するという認識が足りないんだよな』とぼやいていたという。
首相周辺は『首相は数ヶ月前から増税方針を決めていた』と明かす。ギリギリまで判断を延ばし、財務省にとって悲願である消費増税と引きかえに、大規模な経済対策と法人減税を引き出す戦術をとった。
9月上旬にも、首相は好転する経済指標を踏まえ『税率上げのタイミングとしては過去にないぐらい条件が整いつつある』と周囲に漏らした。だが増税方針の表明は10月1日に先送りする。『こういう好機に増税で景気が失速したら少なくとも15年間は誰も消費税に触れられなくなる。だから慎重になるんだ』。
<会見、自ら入念に準備>「長州は4万石を投資」
『増えた4万石の投資が長州の生活を押し上げ、明治維新の原動力となった。一時しのぎにするのではなく未来を描こうとした』。1日の記者会見。首相は地元山口の元長州藩主、毛利重就を引き合いに出した。毛利氏が財政難に陥りながら検地で増やした税収を農地開発や産業育成に充てて経済発展につなげた歴史を、今の首相の取り組みに重ねてもらうためだ。
記者会見に向けた準備を怠らなかった。消費増税は国民に負担を強いる判断だけに『国民にどういうメッセージを伝えるかが重要』(周辺)とみた。企業減税への『企業優遇』との批判を意識し、賃上げや雇用増につなげると繰り返した」。
「政策決定を自ら主導。戦術を周到に組み立て、押し切る形で決着させた」は、正鵠を突いている。安倍首相は、ギリギリまで最終判断を引き延ばし、財務省の悲願である消費増税と引き換えに、政権の最重要課題であるデフレ脱却の切り札である法人実効税率の引き下げを引き出し、かつ、10年10月からの消費税率10%引き上げを保留にしたのである。
財務省主導の消費増税を覆し、首相主導の消費増税に変えたのである。財務省の悲願である消費増税は、10%まで引き上げなければ、九仞の功を一簣に欠く事になるから、白旗を掲げざるを得ない。安倍首相の完勝である。