2016年8月17日 産経「あめりかノート」に、古森義久氏が「尖閣事態、日本の国家危機」
産経の「あめりかノート」に、古森義久氏が「尖閣事態、日本の国家危機」を書いている。
「8月に入っての尖閣諸島(沖縄県石垣市)海域での中国の威圧行動の急拡大は、日本の安全保障や日米同盟の今後になにを意味するのか。米国側で中国の海洋戦略を一貫して研究する官民4人の専門家に尋ねてみた。
中国の今回の動きは尖閣奪取にとどまらず、東シナ海全体への覇権を目指す野心的目標への新展開だとみる点ではほぼ共通する見解が返ってきた。
『中国の最近の尖閣海域での動きは明らかに日本を威圧する作戦の新たなエスカレーションであり、日本を領土問題での2国間協議に引き出すことが当面の狙いだろう』
米海軍大学の中国海洋研究所のピーター・ダットン所長はこう述べた上で、『米国の当面の役割は軍事衝突を抑止することだ』という表現で、いまの尖閣情勢が軍事衝突に発展する危険を重くみていることを示唆した。
海軍大学の教授で同研究所の研究員、トシ・ヨシハラ氏は『中国のこうした活動拡大で東シナ海全体でのパワーシフトが進むことを最も懸念する』と述べた。もちろん中国の力が強くなるシフトである。
『中国はまず尖閣海域に恒常的な存在を確立して、日本側の施政権を突き崩そうとしている。尖閣上陸も可能な軍事能力を築きながら、日本側の出方をうかがっている』
ヨシハラ教授は日本がいまどう対応するかの深刻なジレンマに直面したと指摘し、中国の挑発を横にそらす『水平的エスカレーション』として日本が南シナ海での中国の膨張抑止に加わるという案を提起した。
元国防総省日本部長で、いまは民間の安保研究機関『グローバル戦略変容』会長のポール・ジアラ氏も近年は中国の軍事を調査の主対象としてきた。『事実上の民兵組織の<漁船>を動員して日本に軍事圧力をかける中国の手法は巧妙であり、日本はまず尖閣諸島の防衛能力を高めねばならない。いまの事態は米国にとっても深刻であり、日米同盟としての対処が必要だ』
ジアラ氏は米国政府がこれまでの尖閣の主権での『中立』を変えて、日本の主張を支持し、尖閣海域で米軍演習を実施すべきだと提言した。
中国の軍事を研究する民間の『国際評価戦略センター』リチャード・フィッシャー主任研究員はより明確に現状を日本への危機だと強調した。
『中国は今回の拡大作戦で尖閣奪取の軍事能力を高め、日本の防衛の能力や意思を探っている。日本の抑止が弱いとなれば、必ず攻撃をかけてくる』
その攻撃方法は人民解放軍指揮下の『漁船』民兵を利用し、ヘリコプターや潜水艦を使っての尖閣奇襲上陸の見通しが高い。中国軍が最近、ウクライナなどから調達した大型ホーバークラフトの使用もありうるという。
フィッシャー氏はその上で中国の攻撃を抑止するための日本側の先島諸島のミサイル強化や沖縄などのオスプレイの増強を訴えるのだった。これら4人に共通するのは現在の尖閣の事態を日本の国家危機だとみる認識だともいえた。当の日本の反応はなんと異なることかと痛感した」。
「中国の今回の動きは尖閣奪取にとどまらず、東シナ海全体への覇権を目指す野心的目標への新展開だ」との見解は正論である。問題は、国内世論とのかい離である。安保法制反対が50%を超えていることである。「中国の脅威」へ危機意識のなさにある。