2016年2月14日 日経 社説「市場の不安払拭へ協調策を探れ」
「先ず、欧州中央銀行(ECB)と日銀の追加緩和を」
日経の社説に「市場の不安払拭へ協調策を探れ」が書かれている。
「世界の金融市場の動揺が収まらない。リスクを回避するため国債など安全資産へ資金を移す動きが加速。日経平均株価は約1年4カ月ぶりに1万5000円の大台を割り込んだ。世界経済の安定へ向けて主要国が政策協調していく姿勢を示し、市場の不安を払拭する必要がある。
市場がここへきて不安定さを増している背景には、世界経済の下支え策が期待される米国の経済が大幅に減速するのではないかとの懸念が浮上してきたことがある。
<「第3の危機」防止を>
米国は雇用の改善が続いており、賃金も上向き始めた。だがドル高などの影響で米企業の業績には陰りが出ている。イエレン米連邦準備理事会(FRB)議長は議会証言で『米国経済は堅調さを保っている』との見方を強調する一方で、世界的な株安や原油安の影響を注視する姿勢も示した。
市場では米国の再利上げが遠のいたとの見方が優勢となり、この結果、円高・ドル安が進み、日本の株安に結びついた。
年初来の市場の反応は行き過ぎの面も強い。中国経済や資源国の経済悪化に加え、日米欧の先進国の経済も勢いを欠くのは確かだが、ここ1カ月で状況が急変したわけではない。むしろ金融市場の動揺が企業や消費者の心理を悪化させ、投資や消費に響く悪循環が起きつつあるようにも見える。
しかし、市場動向を傍観するだけでは悪循環に歯止めはかからない。2008年のリーマン・ショックや11~12年の欧州危機に続く『第3の危機』を防ぐためにも、世界の主要国や国際機関は世界経済や市場を安定させる見取り図を占めさなければならない。今月末に中国で開く20カ国・地域(G20)財務相・中央銀行総裁会議へ向け協調策を探ることが求められる。
いま目立つのは中央銀行の積極姿勢だ。原油安や中国の設備過剰などに伴うデフレ懸念への対応に躍起になっている。欧州中央銀行(ECB)に続き、日銀もマイナス金利政策の導入に踏み切った。スウェーデンなどすでにマイナス金利を導入している国ではマイナス幅拡大の動きも出ている。
デフレ転落を防ぐのは重要だが、金融機関経営への悪影響などマイナス金利の副作用への懸念が市場の動揺の一因になっているのも事実だ。通貨高を防ぐためのマイナス金利拡大競争が始まると見られれば、不安を増幅しかねない。
金融政策への依存には限界があり、各国の政府や国際通貨基金(IMF)など国際金融機関がもっと前面に出るべきときだ。
重要なのは、世界経済の不安の根源になっている問題に正面から向き合うことである。最大のカギは中国だ。経済の先行きと政策運営への信頼を取り戻し、中国の人民元の先行き不安を和らげることが重要だ。
設備・債務の過剰解消に伴い、成長が減速するのは避けられないが、急激な失速の防止も必要だ。今後の経済の主役となるべき家計を支える政策とともに、国有企業改革などにより民間の力をもっと引き出すことが欠かせない。海外の人民元保有を促す改革なども求められる。人民元の先安観が払拭できなければ、アジア諸国の通貨下落が進み、米国の利上げなどを機に加速している資本流出が止まらなくなる。
<鍵は中国不安の解消>
資源に頼る新興国の経済悪化も防がなければならない。資金繰りが苦しくなってIMFに支援を求める動きも出始めている。資源依存から脱却する構造改革と合わせた金融支援を検討すべきだ。ドルなどの調達をしやすくする通貨のスワップ協定の拡大も望ましい。
欧州は債務危機の後遺症から抜け切れていない。ギリシャ問題の再燃や一部金融機関の経営悪化も懸念される。金融システムを万全なものにすると同時に、成長を促す改革も推進すべきだ。
日本はリーマン・ショックやユーロ危機に続き、世界経済の悪化や海外発の市場の混乱で揺さぶられる構図に追い込まれている。
主要7カ国(G7)の議長国として政策協調を呼びかける責務があるが、同時に自身の成長力を高める政策を強化する必要がある。農業や医療分野などへの企業の参入や対内直接投資を促す規制改革のほか、子育て支援や社会保障改革など、将来不安を和らげる施策も重要だ。
金融市場の動きに一喜一憂すべきではないが、日本を含めた各国政府は経済活動への影響や資金の流れを注意深く見極め、柔軟に対応できるよう備えを固めることが大事である」。
社説の主旨である「市場の不安払拭へ協調策を探れ」は、正論である。今月末に中国で開く20カ国・地域(G20)財務相・中央銀行総裁会議で協調策を探れるか、である。世界の金融市場の動揺を収めるかのカギとなるからである。
問題は、世界経済の不安の根源となっている中国経済の失速、人民元安をいかに阻止できるか、である。解は中国の過剰設備・過剰債務の解消であるが、共産党主導の統制経済の所産であるから、共産党一党独裁体制の崩壊なくして解消はあり得ない。協調策は難しいとなる。次善の策として、米欧日による中国包囲網を構築しての市場経済への取り込みを計る以外にない。まず、金融緩和策において、欧州中央銀行(ECB)・日銀が追加緩和策を実施し、米連邦準備理事会(FRB)が利上げペースを遅らせることによって、ひとまず、世界の金融市場の動揺は収まる方向に向かうが。