2021年6月17日 産経 「中国侵攻に強い危機感」「日米声明『台湾』52年ぶり明記の背景」

産経に田中靖人前台北支局長が「中国侵攻に強い危機感」「日米声明『台湾』52年ぶり明記の背景」を書いている。
軍事力を急速に増強する中国は日本列島と台湾をつなぐ第1列島線以西から米軍を排除する能力を構築しつつあり、米軍が台湾有事に対応できない懸念が強まっている。4月の日米共同声明に『台湾』が1969年以来、52年ぶりに明記された背景には、中国の台湾侵攻への強い危機感がある。69年と比べて軍事バランスが中国優勢に傾き、米国は民主化した台湾を守るため支援を強化しており、日本も主体的な関与が求められている。
<中国の台湾侵攻に現実味>

米インド太平洋軍幹部から今年3月、中国の台湾侵攻を予測する発言が続いたことを受け、各国の専門家から台湾有事の可能性や米中の戦力比較に関する分析が相次いで出されている。中でも、米スタンフォード大のオリアナ・スカイラー・マストロ研究員が米外交誌フォーリン・アフェアーズの最新号に発表した論文が注目を集めている。
『習(近平国家主席)は許容範囲内のコストで台湾を武力で奪還できると助言する軍人に囲まれている』
同研究員は論文でこう指摘し、中国指導部が自国の能力を過信して台湾への侵攻に踏み切る可能性に警鐘を鳴らした。
台湾をめぐり緊迫度が高まる中、菅義偉(すが・よしひで)首相と、バイデン米大統領は4月の首脳会談で日米双方の共通認識として『台湾海峡の平和と安定の重要性』を強調した。日米首脳の共同声明で『台湾』が明記されたのは、69(昭和44)年11月、佐藤栄作首相とニクソン米大統領がワシントンで会談した際の共同声明以来だった。
69年の共同声明では、佐藤首相の発言として『台湾地域における平和と安全の維持も日本の安全にとってきわめて重要な要素』とする『台湾条項』が盛り込まれたが、69年と現在とでは、台湾をめぐる情勢は大きく異なっている。
米国は当時、外交関係のあった台湾と米華相互防衛条約を締結しており、台湾には台湾協防司令部(台北)が置かれ米軍が駐留。アジア最大規模だった中部・台中の空軍基地からはB52爆撃機がベトナム戦争に投入され、中台間の武力紛争防止のため米第7艦隊(神奈川県横須賀市)の艦艇が定期的に台湾海峡を通過した。米国は69年の日米共同声明でも台湾の防衛義務に言及している。
台湾は?介石政権の独裁体制下で国連に『中国』として議席を持ち、中国大陸を武力で奪還する『大陸反攻』を堅持。兵力も現在(約17万5千人)の3倍以上の60万人近くを擁していた。一方、中国は69年3月、ダマンスキー(珍宝)島をめぐりソ連と軍事衝突。北方に脅威を抱え、台湾侵攻の余裕はなかった。
佐藤政権は当時、沖縄の返還を求めていた。米軍施政下にあった沖縄の米軍基地の使用は日米安保条約6条に基づく『事前協議』の対象外で、米側は返還後も『自由使用』を求めていた。日本側は返還交渉を進めるため、共同声明に『台湾条項』を盛り込み、台湾有事での基地使用に応じる姿勢を示す必要があった。
<日本に求められる役割>

一方、現在の台湾は、96年から総統直接選が行われるなど民主主義が定着。蔡英文政権(民主進歩党)は『台湾は中国の一部』などと中国が主張する『一つの中国』原則を認めていない。バイデン米政権は価値を共有するパートナーとして関与を強めている。
中国は軍事力の近代化を進め、今年度の国防予算は公開分だけで台湾の16倍に上るなど中台の軍事バランスは中国側が圧倒。台湾の国防部(国防省に相当)は、中国はすでに台湾の離島への侵攻能力はあると分析する。米中の軍事バランスでも、米ランド研究所は2015年9月の報告書で、台湾有事で米軍が介入した場合でも中国側が優勢だと試算した。
米国は1979年の米台断交後、国内法の『台湾関係法』に基づき台湾に武器を売却する一方、台湾有事の際に軍事介入するかどうかは明確にしない『曖昧戦略』を取ってきた。だが、米研究者からは最近、中国を抑止するため、武力侵攻には軍事介入で対抗すると明確化するよう求める声が出ている。
日本に求められる役割も異なる。安全保障問題に詳しい明海大学の小谷哲男教授は、中国の台湾侵攻時には在沖縄米軍基地への攻撃が想定されるとして『台湾有事は、日米安保条約5条に基づく日本有事下の日米協力として検討すべき課題だ』と指摘。台湾有事に備えた日米共同作戦計画の策定などに加え、日本と台湾の間でも、情報協力や多国間枠組みでの自衛隊との連携など『日台の防衛協力について検討する必要がある』と提言している」。
4月の日米共同声明に「台湾」が1969年以来52年ぶりに明記されたが、中国の台湾進攻への強い危機感からである。その根拠は、今年3月に米インド太平洋幹部からの中国の台湾進攻を予測する発言が相次いだことであり、その時期は、2024年5月の台湾総統選を睨んだものとなっている。米スタンフォ―ド大のオリアナ・スカイラー・マストロ研究員が米外交誌フォ―リン・アフェアーズの最新号に発表した論文「習は許容範囲内のコストで台湾を武力で奪還できると助言する軍人に囲まれている」がそれである。トランプ氏の再登板前の2024年10月までが好機となる。バイデン大統領が軍事介入できないとの読みである。イランを使ってのイスラエル、サウジ侵攻作戦をもって米軍の兵力分散を図ってくる。中国は、沖縄の米軍基地からの米軍出撃を妨害するため、沖縄革新県政維持が必須となる。自衛隊の米軍支援を阻止するために、2024年の前半までに野党共闘による政権交代を図る。2024年11月のトランプ再登板までが、北東アジア情勢の未曽有の危機となる。

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