2017年6月5日 産経「混迷文科省、前次官告発』㊥「強力な権限『教育村』に君臨」

産経の「混迷文科省、前次官告発』㊥に「強力な権限『教育村』に君臨」が書かれている。

「『しっかりとした法令に基づき、根拠を持ってやっていると確信している。何ら問題ない』。地方創生担当相の山本幸三は26日の記者会見でこう述べ、学校法人加計学園が国家戦略特区を活用した獣医学部新設の経緯について、所管する内閣府として再調査しない意向をきっぱりと示した。

念頭には、文部科学省前事務次官の前川喜平(62)による前日の記者会見があった。内閣府側が『総理のご意向』などと発言したとされる記録文書を『本物だ』と主張した前川は、獣医師需給の見通しが示されなかったとして、『薄弱な根拠の中で規制緩和が行われた。公平、公正であるべき行政の在り方がゆがめられた』と批判したのだ。

積み重ねた議論の公正さを打ち消す発言だけに、前川の元上司である文科相の松野博一は26日、『文科行政がゆがめられたとの認識はない』と一蹴した。

『総理のご意向』で行政はゆがめられたのか。前川と関係省庁との主張は真っ向から対立する。ただ、加計学園問題は首相の安倍晋三がかつて『岩盤規制も私のドリルからは逃れられない』と、聖域なき規制改革への強い意向をにじませた国家戦略特区の枠組みが前提であることは軽視できない。

約50年前の大学獣医学部新設を最後に、需要が充足しているとして文科省が昭和59年以降、定員を抑制する方針を堅持してきた獣医学部。その厚い岩が、安倍のドリルの掘削対象に選ばれた。

国家戦略特区は、安倍内閣で平成25年6月に閣議決定された成長戦略『日本再興戦略』に盛り込まれた政治主導の重要政策だ。国が指定した地域で岩盤規制に風穴を開け、新たな活力を生み出す――というのが趣旨。獣医学部新設に関する検討事項は27年6月の閣議で決定された。

これらを踏まえれば、加計学園の獣医学部新設で『総理のご意向』があったとしても不自然ではない。実際、安倍が獣医学部新設に向け制度見直しを表明する約2カ月前の28年9月、国家戦略特区ワーキングループ(WG)の会合で、事務局の内閣府審議官が『総理から検討を深めるようお話をいただいている』と述べてもいる。

むしろ、会合ではWG委員が、昭和59年以降続いている獣医学部の定員抑制方針を盾に難色を示す文科省側に対し『定員管理で縛る話ではない』などと主張する姿勢が目立った。文科省は既得権を守る“抵抗勢力”だったのか。立場によって見解は分かれる。

そもそも強力に物事を進めたい官庁が、首相らの意向を振りかざすことは、霞が関で珍しくない。ある省庁の中堅幹部は『そんな意向に惑わされず行政のプロとして信念をもって議論を重ね、最後は<政治判断に従う>というのが役人のあるべき姿』と指摘し、退職後に政府批判を展開した前川への違和感を隠さない。

その違和感の正体は何なのか。官僚の間には、前川らOBを含め文科省職員43人が処分された違法な天下り斡旋問題と通底する、との声が広がる。官民癒着の批判を受け、現職による斡旋を禁じた改正国家公務員法施行(平成20年)以降も横行した文科省での天下り問題について、別の省庁幹部は『法改正後も文科省だけには、なぜか切迫した雰囲気が感じられなかった』と、漏らす。

強力な権限を手に『教育村』に君臨してきた文科省。『自己中心的で世間知らず』。霞が関では同省の混迷の要因について、こうした見方が絶えない」。

「貧弱な根拠の中で規制緩和が行われた」というが、規制緩和自体が悪なのか、である。獣医学部の50年間新設なしこそ、時代のニーズに応えていない証左である。時代錯誤の文科行政をゆがめたのではなく正したのである。前川氏の告発は、抵抗勢力都市の意趣返しとなるが。

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