2017年3月8日 日経「このNEWS」「米国防費1割増」「工業再生透ける選挙対策」

日経の「このNEWS」に「米国防費1割増」「工業再生透ける選挙対策」が書かれている。

「トランプ米大統領は議会での施政方針演説の前日の2月27日、2018会計年度(17年10月~18年9月)予算案に国防費を前年度比で1割増に当たる540億ドル(約6兆円)も増やすと表明した。『歴史的な増額』から浮かび上がるのは、外交・安全保障上の危機感だけではない。トランプ氏を大統領に押し上げた中西部のラストベルト(さびついた工業地帯)にお金を流すことで、最初の信任投票になる18年の中間選挙を勝ちにいく狙いが透ける。

今回の軍拡方針を読み解くうえでの隠れたキーワードは、ラストベルトだ。中西部から北東部ニューイングランドにかけた地域で、かつては石炭や鉄鋼業が栄えた。

『忘れ去られた男女は、もう忘れられることはない』。トランプ氏は1月20日の大統領就任演説でこう語りかけた。忘れられた男女とは、自身の中核的な支持層である白人の中低所得層をさす。その中心はラストベルトの白人労働者とかさなる。この10年間、薬物中毒や自殺などで白人中年の死亡率は上昇した。

『米軍を再建し、国防費の強制削減措置を撤廃し、史上最大規模の国防支出増額を求める予算を議会に送る』。トランプ氏は2月28日の施政方針演説でも力を込めた。

米国防費の2割弱は、車両や艦船航空機、弾薬などの装備に使われる。装備の中心的な素材は鉄鋼だ。鉄鋼は世界的に生産過剰となり、中国が安値で対米輸出している影響が色濃い。ただ、かつての勢いを失ったとはいえ、米国は中国、日本、インドに次ぐ世界4位の粗鋼生産量を今も維持している。その多くがラストベルトに生産拠点を持つ。例えば、USスチールはペンシルベニア州、AKスチールもオハイオ州に本社や製鉄所を構え、軍需産業向けの製品をつくっている。

軍用機やミサイルなどに多用されるチタンやニッケル合金。世界大手のワイマンゴードンやプレシジョン・キャストパーツは、ラストベルトに多くの製造拠点を持つ。原潜の動力源をつくるBWXテクノロジーズや防衛大手のゼネラル・ダイナミクスもオハイオ州やインディアナ州などの中西部に拠点を置く。

トランプ氏は、12年の大統領選で民主党が勝利したラストベルトのミシガン、ウィスコンシン、オハイオ、ペンシルベニアの各州を16年に奪還した。逆にこのラストベルトの白人中低所得層をつなぎ留められなければ、18年の中間選挙での勝利や、20年の再選はおぼつかない。国防費の増額で軍需産業にお金を流し、ラストベルトで鉄鋼などの生産を喚起する。そして雇用創出も見込む。国防費の増額はラストベルト再生へのトランプ氏の執念がにじむ。

『米国を再び偉大に』をスローガンに選挙戦を勝ち抜いたトランプ氏。大統領の理想像として参考にしたのが『強い米国』を掲げたレーガン氏だった。国防被を大幅に増やし、戦略防衛構想(SDI)を推進。軍拡競争に引き入れられた旧ソ連の国家財政は破綻し、冷戦は終結した。

レーガン氏の発想と今回のトランプ氏の国防費増額は同じ路線上にある。レーガン氏が外交戦略として命名した『力による平和』をトランプ氏はそのまま踏襲した。レーガン氏の再来を強く意識している証しだ。レーガン氏は俳優からカリフォルニア州知事に転じ、1981年に大統領に就いた。ワシントンで当初『政治の素人』として軽んじられた政治的な経歴も似通っている。

レーガン氏は、今なお歴代大統領の人気ランキング上位の常連を占める。大統領選で米国の分断をあおり、過半の米国民に嫌われるトランプ氏。レーガン氏のように軍拡をテコに大統領としての評価を高められるだろうか」。

トランプ米大統領は、レーガン氏の「力による平和」の外交・安保戦略を踏襲し、中国との軍拡競争に打って出ようとしている。国防費増額6兆円をラストベルトに流入させ、18年中間選挙を勝ち抜くためにでもある。トランプ政権の日米同盟基軸強化は本気である。

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