2016年9月27日 朝日「時時刻刻」に「生前退位論議『安定』の6氏」「皇室専門会入れず」「有識者メンバー政府系会議の常連ぞろい」

朝日の「時時刻刻」に「生前退位論議『安定』の6氏」「皇室専門会入れず」「有識者メンバー政府系会議の常連ぞろい」が書かれている。

「政府は23日、天皇陛下の生前退位などを検討する有識者会議のメンバー6人を発表した。皇室問題に詳しい専門家は入れず、これまで様々な有識者会議などに起用した識者らを集めた。宮内庁に官邸中枢から幹部を送り込む人事も決定。首相官邸が主導し、スピード重視で生前退位の議論を進める狙いがありそうだ。

『静かに議論を進めたい』。菅義偉官房長官は有識者会議の設置を発表した23日の会見で『静か』という言葉を5度も繰り返した。

政府が有識者会議の人選にあたって重視したのは、安定感だった。6人のメンバーに皇室問題の専門家はおらず、憲法や行政法などに明るい学者や経済人をそろえた。いずれも政府の有識者会議や審議会などの常連メンバーだ。議論をまとめる座長には今井敬・経団連名誉会長が就く見通し。今井氏は首相と定期的に会食を重ねる間柄で、首相の政務秘書官を務める今井尚哉氏のおじでもある。

有識者会議はこの6人を中核にして随時、皇室問題や歴史の専門家らを招き、ヒアリング形式で議論を進める予定だ。首相官邸の幹部は『この問題は論争ばかりしてもまとまらない。専門分野を持ちつつ、国民を代表する立場でものが言える人をとりまとめ役として選んだ』と解説。別の幹部は『国民目線で真っ白な視点で議論してもらう』と強調した。有識者会議のメンバーのひとりは政府から数日前に打診され、『警察の警護対象になるとの説明を受けた』と話す。メンバーと官邸との事前打ち合わせは来週にも始まる予定だ。

今回の有識者会議のスタイルは、小泉政権時代の2005年に『女系天皇』を認める報告書を取りまとめた首相の私的諮問機関『皇室典範に関する有識者会議』も参考にしたという。

当時座長を務めた東大元総長、古川弘之氏の専門は機械工学。メンバーも皇室問題の専門家ではなく、経団連の奥田碩元会長をはじめ古代史や憲法などの識者を中心に10人で構成。その上で神道学や日本法制史、皇室研究などの専門家8人にヒアリングを実施した。

安倍晋三首相に近い官邸関係者は『有識者会議は、官邸のコントロールで議論を進めるための仕掛けだ』と言い切る。

≪提言、年内にも?≫

政府は有識者会議の設置にともない、内閣官房にある皇室典範改正準備室の態勢を23日付で強化した。総務省や厚生労働省、内閣府などから新たに職員を集め、11人だった職員を20人に倍増。準備室を会議の事務局にして、議論を速やかに進める狙いがある。

会議は10月中旬に初会合を開く。菅官房長官は会見で『今回の問題は国家の基本に関わる重要な問題だ。だからといって、いたずらに対応を先延ばすものではない』と述べた。首相周辺も『年内に複数回の会議を開くスケジュールを描いている』と指摘。陛下が高齢であることも考慮し、議論を急ぎたい考えだ。

政府は、いまの天皇陛下に限って生前退位を可能とする特別措置法の整備を検討している。有識者会議も『まずは目の前の課題に集中して進める』(官邸幹部)方針で、生前退位について一定の方向性が見えた段階で提言をまとめる。

ただ、生前退位のあり方については皇室問題の専門家らの間でも見解が割れている。『天皇陛下の退位は皇位継承の根幹に関わる』として、特措法ではなく皇室典範の改正を求める意見があるほか、『現行の皇室典範に定められた摂政制度を活用すべきだ』などと、生前退位に否定的な立場の専門家もいる。

政府は有識者会議の提言を踏まえ、早ければ来年の通常国会にも生前退位を可能とする法案を提出したい考え。だが、意見が割れればとりまとめが難航する可能性もある。首相周辺は『有識者会議は年内の決着を目指すが、やってみないと分からない面もある』と話す。

≪にじむ官邸主導、宮内庁次長人事布石≫

宮内庁の幹部人事も23日に発表された。政府はこの日の閣議で、風岡典之・宮内庁長官が26日付で退任し、山本信一郎次長がトップに就く人事を決定。その山本氏の後任人事が異例だった。官邸中枢から内閣危機管理監の西村泰彦氏を送り込むことにしたのだ。

『宮内庁の人事を官邸主導に切り替えた』。首相に近い官邸関係者は、今回の宮内庁人事を解説する。長官は70歳の節目に交代し、次長が昇格するのが通例だ。現長官の風岡氏が今月70歳を迎え、生前退位の法制化に向けた準備も本格化することから、菅氏を中心とする官邸幹部が体制の刷新を図った、という。首相周辺は『官房長官として大局を見極めた肝いり人事だ』と話す。

新次長の西村氏は2014年2月から、政権の危機管理役を担ってきた。警察出身者が次長に起用されるのは22年ぶり。同じ警察出身で皇室問題を官邸でとり仕切る官僚トップの杉田和博官房副長官との太いパイプを生かし、生前退位をはじめとする皇室のあり方の見直しにも取り組むことになる。

天皇陛下が生前退位の意向を周辺に示していることが報じられた7月以降、官邸内には『宮内庁が政府の一員として動いているかどうか分からないところがある』(首相周辺)などと、連携不足を指摘する声があった。西村氏の人事は宮内庁内でも直前まで一部の関係者しか知らなかったといい、今後、宮内庁への官邸の影響力が強まりそうだ」。

官邸の方針は、有識者会議の提言を年内に、特別措置法を来年の通常国会で成立、19年1月天皇陛下即位30年までに、皇室典範改正を、である。安倍晋三首相の長期政権戦略と連動する。

pagetop