2015年10月20日 産経「正論」 西岡力・東京基督教大学教授が「北へ強力な制裁実施の通告を」

産経の「正論」に西岡力・東京基督教大学教授が「北へ強力な制裁実施の通告を」が書いている。

「拉致問題は今、どうなっているのか。私に、くりかえし投げかけられる質問だ。

『勝負はついていない。十分勝ち目はある。今年に入り、水面下で激しいやりとりが続いている。安倍晋三首相は全ての被害者を返せという要求を下ろしていない。金正恩第1書記は被害者を返す決断をしていないが、対中関係悪化と外貨不足などから日本との協議を打ち切ることもできずにいる。

そのため実務協議はほぼ1年開かれないが、繰り返し水面下の接触がなされている。金正恩氏は8月以降、日本世論に対して、非公式ルートなどを使い被害者の多くは本当に死んでいるのだという揺さぶり工作をかけている。圧力を強めて、揺さぶりは逆効果だと知らせるべきだ』と答えている。

<詰めが甘い3つの譲歩>

昨年5月、日朝は『ストックホルム合意』を結び、7月に日本は朝鮮総連幹部の北朝鮮往来許可などの制裁解除を行った。北朝鮮は特別調査委員会なるものを立ち上げて、拉致被害者、拉致の可能性がある人を含む行方不明者、残留日本人・日本人妻、終戦直後に北朝鮮でなくなった邦人の遺骨と墓について調査することを約束した。合意は、以下の3点で日本の譲歩だった。

第1に、北朝鮮が調査を開始するといったことは『口約束』にすぎないのに、日本は制裁解除という実質的行動を行った。第2に、拉致被害者は全員、北朝鮮当局の厳しい管理下にあり名簿がすでにあるのだから調査など必要ないのだが、『再調査』するというフィクションを受け入れた。第3に、主権侵害である拉致問題と他の人道問題を、同じ枠組みで扱うことを許容した。合意の根本的欠陥は、こちらがこれだけ譲歩しながら水面下で全被害者帰国を約束させていなかったことだ。今から見ると詰めが甘い合意だった。

今年に入り、外務省幹部は1カ月に1回以上のペースで北朝鮮側と秘密接触をもってきた。そこで北朝鮮は、ストックホルム合意の弱点を突いてきた。すなわち、拉致被害者の調査に時間がかかっていて終わっていないとウソをつき、遺骨や在朝日本人らについては調査が終わったから、そちらから伝達したいと言ってきた。それに対して、安倍政権は拉致最優先という立場を崩さなかった。

<公然化できなかった謀略情報>

3月にはマツタケ不正輸入事件に関連して朝鮮総連議長と副議長の自宅が家宅捜索された。北朝鮮は自国国会議員である2人の自宅の捜索は『主権侵害』だなどといいがかりをつけ、4月に『政府間対話が困難になっている』と脅した。それに対し安倍首相は『拉致問題を解決しなければ北朝鮮は未来を描くことが困難である』という毅然たる発言で反論した。その後も北朝鮮は秘密協議を続けた。つまり、脅しはきかなかった。

8月以降、安倍政権は調査報告を早く出せと要求する代わりに、全ての被害者を帰国させよと北朝鮮に求め始めた。岸田文雄外相が8月6日、北朝鮮外相との会談で明確にそう発言し、9月13日、安倍首相も『直ちに拉致被害者全員を日本に返すよう強く要求してまいります』と明言した。

一方、北朝鮮はほぼ同じ時期から『拉致被害者の調査も終わっている。新たな生存情報はない。日本が受け取りを拒否している』という謀略情報をさまざまなルートで流し出した。しかし9月21日、ジュネーブで行われた国連北朝鮮人権パネル・ディスカッションでは、日本の家族会代表と政府代表が拉致被害者の早期帰国を求めたのに対して、北朝鮮代表は拉致問題に一切言及しなかった。調査が終わっているという謀略情報を公然化することができなかった。

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