2019年6月19日 朝日「2019参院選」「『老後2000万円』国会で応酬」「年金100年安心ウソだった」「野党、争点化へ追及」

朝日の「2019参院選」に「『老後2000万円』国会で応酬」「年金100年安心ウソだった」「野党、争点化へ追及」が書かれている。

「参院選を控えた与野党論戦の論点に、老後の資産形成における『2千万円不足』問題が急浮上した。安倍晋三首相ら全閣僚が顔をそろえた10日の参院決算委員会で、野党側はこの問題に照準を合わせて政権を追及。これと合わせ、消費税率引き上げや安倍首相が掲げる憲法改正、米国との貿易交渉などへの批判を強め、参院選の争点に位置づける構えだ。

≪首相は釈明・反論≫

『国民が怒っているのは(公的年金が)<100年安心>がウソだったことだ。自分で2千万円をためろとはどういうことか』

10日の参院決算委。4月の同委の質疑以来、初めて全閣僚が出席した論戦の場で、    立憲民主党の蓮舫副代表は強い口調で『2千万円不足』問題を取り上げた。

3日公表された金融庁の報告書にある『公的年金の水準は今後調整されていくことが   見込まれる』との記載について、蓮舫氏は『足らざる部分のためにもっと働け、と。公助から自助にいつ転換したのか』と質問を投げかけた。

首相は『老後に月5万円、30年で2千万円の赤字であるかのような表現は、誤解や不安を広げる不適切な表現だった』と釈明。だがその後、簡潔な答弁を求める石井みどり委員長(自民)の注意をよそにたたみかけた。『100年安心はウソではない』

反論の材料にしたのは、首相が『100年安心』の根拠としている『所得代替率』だ。   所得代替率とは、現役世代の平均的な手取り収入に対する年金支給額の割合を示す数値で『100年安心』で約束したのは50%。厚生労働省によると今は約6割で、当面は50%を割り込まない見通しだ。首相はこの点を踏まえ『(現行制度で)給付と負担のバランスは取れている』とし、野党の批判は当たらないという認識を示した。

首相はさらに『マクロ経済スライド』という、平均余命の延びなどに応じて年金支給を調整する仕組みの説明を駆使して反論した。2019年度の支給額の見直しで4年ぶりにこの制度を適用し、賃金の伸び率(0・6%増)を下回る0・1%増に支給額を抑制しつつ、プラス改定ができた成果を強調。これにより年金制度の持続可能性を担保できたとして、『現在の受給者、将来世代の双方にプラスになる。公的年金の信頼性はより強固になった』と胸を張った。

今回の『2千万円問題』の議論では、現役世代の負担で高齢者の生活を支える年金制度について、制度の持続可能性という『根幹』を守るのか、支給水準を重視するのかという認識のギャップも浮かぶ。

少子高齢化で現役世代が受給世代を支える年金制度の仕組みが限界に近づきつつある、との指摘もある。金融庁の報告書も年金が老後の収入の柱であることは認めつつ、支給額の目減りは避けられないという文脈で作成された。

同庁幹部は『あくまで平均的なモデルケース』として『2千万円』と明示したとするが、野党側は政権追求の好材料を得たとして批判を強める。

この日、共産党の小池晃書記局長は『100年安心と言っていたのに、いつの間にか年金は当てにするな、と。国家的詐欺に等しい』と追及すると、首相は『100年安心は仕組みとして確保する。給付と負担のバランスを取る』と答弁し、給付よりも制度を維持することを重視する考えをにじませた。

≪「選挙に影響」自民火消し≫

参院選に向けて弾みをつけたい野党は『2千万円問題』をきっかけに『年金』に戦線を拡大させる構えだ。

第1次安倍政権の07年、年金記録のずさん管理が発覚。自民党はこの年の参院選で大敗し、安倍政権退陣につながった。年金は有権者の関心も高く、『安倍政権にとって鬼門』(野党中堅議員)とみるためだ。

蓮舫氏はこの日、麻生太郎財務相兼金融相に金融庁の報告書を読んだかどうかをただし、麻生氏から『全体を読んでいるわけではない』との答弁を引き出し、『国民の間で怒りが蔓延している大問題なのに』と突き放した。さらに、いまなお2千万件弱の記録の持ち主が不明のままの年金記録問題も取り上げ、当時『最後の1人まで徹底的にチェックし、全て支払う』と発言した首相に『口約束だったじゃないか』と迫った。

一方、国民民主党の大塚耕平氏が問題視したのは、日本年金機構が年金の受給開始(原則)65歳を前に送付する年金請求書だ。

現行制度では、受給開始時期を繰り下げると年金額は増額され、70歳開始の場合は65歳開始と比べて年金額は42%増える。このため、請求書には『年金額を増額させますか?』などの設問があり、受給開始を繰り下げる場合は請求書の提出は不要だとしている。

大塚氏は『70歳まで繰り下げる方に誘導しているのではないか』と指摘した。平均余命よりも前に死亡した場合、65歳からの受給開始に比べて受け取る年金額が少なくなりうるため、大塚氏は『年金請求書を<年金詐欺>と言う人たちがいる』と批判した。

野党側は参院選に向け、10月に予定される消費増税や、首相が目指す改憲に反対姿勢を強め、米国との貿易交渉や、日ロ、日朝関係など安倍政権の外交姿勢なども争点化する構えだ。

ただ、金融庁の報告書をきっかけに年金問題が急浮上。旧民主党政権も年金制度の抜本改革を掲げつつ実現できなかった経緯があり、野党も無傷ではいられないテーマだが、国民民主党の玉木雄一郎代表は10日、『年金を大きな争点として参院選を戦わなければならない』と山形市内で記者団に強調した。

10日の自民党役員会では改選組の参院議員から『2千万円問題は参院選に影響がある』と懸念する声が出た。二階俊博幹事長は記者会見で『(金融庁の)報告書は老後に備えて個人の置かれた状況に応じ有利な資産形成ができるようにという観点からの提言。年金制度の信頼性とは別のものではないか』と火消しに回った」。

3日に公表された金融庁の報告書に明記された「老後の資産形成における『2000万不足』問題」が、「年金100年安心ウソだった」との野党の批判となり、参院選の争点化にする構えとなっている。「第1次安倍政権の消えた年金記録問題の再現を」、である。年金問題は安倍政権にとっての鬼門であり、官邸の了承なく金融庁の暴走故となる。選挙への影響を恐れ、撤回は必至となるが。

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