2018年3月30日 産経「正論」 木村汎・北海道大学名誉教授「『プーチン4・0』に漂う暗闇」

産経の「正論」に、木村汎・北海道大学名誉教授が「『プーチン4・0』に漂う暗闇」を書いている。

ロシア大統領戦で、プーチン氏が通算4選を果たした。不測の事態が起こらない限り、プーチノクラシー(プーチン政治)が2024年まで続くことになる。今回は大局的な展望について語ってみたい。『プーチン4・0』には、理論的に次のシナリオがありうる。

<ブレジネフ以上の停滞状態に>

まず第一は、懸案の諸改革が試みられるとの予想である。だが、このシナリオは以下の理由で単なる希望的観測にすぎないだろう。かつてブレジネフ政権は18年に及ぶ長期政権となり、政治、経済、社会はすっかり『停滞』した。レーガン米大統領によって『戦略防衛構想(SDI)』――別名、『スターウォーズ計画』――の挑戦を受け、体制崩壊を導く遠因の一つになった。

事実上、ほぼ四半世紀に及ぶプーチン政権が、ブレジネフ政権以上の『停滞』状態に陥ることは、ほぼ間違いないのではなかろうか。トランプ米大統領は、かつてのレーガン氏同様、ロシアに軍拡競争を挑む意図を隠していない。プーチン氏もまた選挙直前の3月1日の年次教書演説で挑戦に応じるとの強気な姿勢を示した。

だが、ロシアの国内総生産(GDP)は世界で第12位以下で米国の10分の1以下。国防費も約10分の1で、軍拡競争でロシアにとうてい勝ち目はない。

右の演説中でプーチン大統領は、ロシアの有権者たちに向かい『大砲とバター』をともに保障する公約を掲げたものの、ロシア経済にそのような余裕などあるはずはない。ロシア国民は、確かに同大統領がクリミアをロシアへ併合したり、シリア空爆を始めたりしたときには快哉を叫び、愛国心を高揚させた。だが、そのような熱は次第に冷却化しつつある。

このまま放っておくと、プーチノクラシーもプーチノミクスもジリ貧状態に陥ることは目に見えており、しかもその過程は既に始まっている。この窮状から抜け出すためには、何よりもロシア経済の抜本的な改革が必須なのである。具体的には、エネルギー資源依存癖から製造加工業へと産業構造を転換させることだ。

<自由を恐れ改革に踏み込まず>

その過程をスピーディーに推進するためには、どうしても『他力頼み』が不可欠だろう。即ち、先進資本主義諸国から投資ばかりでなく、科学技術分野でのイノベーションや経営ノウハウを積極的に導入することである。しかしそのためには、先進7カ国(G7)がクリミア併合以来ロシアに課している制裁の解除が前提になる。

しかも、G7から先進技術を導入する場合、背後の合理的な思考法も付いてくる危険がある。それらを活用する自由や民主的な制度の受け皿をロシア側が備えない限り、外部からの科学技術はいつまでたっても借り物に止まるだろう。プーチン大統領がアレクセイ・クドリン元財務相の経済改革案を採用しえない訳は、クドリン提案がG7との和解ばかりでなく、政治分野の改革にまで及ぶことを懸念しているからに他ならない。

このようにして『プーチン4・0』は、即ち抜本的な諸改革を採用することなく、停滞し続けるだろう。これが、私が予想する最もありそうなシナリオである。ところがひょっとすると、別のシナリオがありうるかもしれない。

<目指すのは「習近平化」か>

何度も本欄で指摘しているように、プーチン氏にとってはサバイバル(生き残り)こそが至上命令である。これは、プーチン氏が少年期にレニングラード(現サンクトペテルブルク)の街頭で学びとった人生哲学に他ならない。つまり、弱肉強食の『ジャングルの掟』が支配する世界では、どのような方法に訴えようとも生き残るのが何よりも肝心であること。

脆弱な身体条件の持ち主だったプーチン少年は、過酷な競争社会に生き残ろうとして、柔道を学び、大きな『屋根』、KGB(ソ連国家保安委員会)への加入を決めた。政権に就いてからは、チェチェン共和国、ジョージア(グルジア)、ウクライナなど独立志向諸勢力に対して果敢な武力攻撃を加えることによって、ロシア国民の間で自らの支持率を高めることに専念した。

もしプーチン氏が24年に大統領ポストを退くならば、どうなるだろう。その後の氏に果たして安閑とした生活が保障されるだろうか。彼の弾圧政治の犠牲になった者たちの遺族や残党たちはリベンジを果たすべく、おそらく世界の果てまでもプーチン氏の命をつけ狙うに違いない。このようなテロリストたちによる暗殺の危険を避けるために、氏はおそらくその後も最高権力者の地位に止まり続けようと試みるのではなかろうか。

メドベージェフ首相ないしアントン・ワイノ大統領府長官を傀儡に祭り上げ、第2次タンデム(双頭)政権を発足させる『鄧小平化』、もしくは、ロシア憲法を改正し永世大統領の地位を目指す『習近平化』――。このいずれかの手段にプーチン氏が訴えるシナリオが存在することを忘れてはならない」。

プーチン大統領は4選を果たし.、2024年までプーチン統治が続くが、それ以降もプーチン氏は憲法を改正し、習近平化を目論んでいる。クリミア撤退はないのだから、ロシア経済停滞打開はシベリア開発における日本の経済協力しかない。北方領土問題の解決が必須となる。安倍晋三政権2021年までがタイムリミットなるが。

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