2017年7月9日 産経 酒井充・政治部次長「政権批判『改憲封じ』見え隠れ』

産経に酒井充・政治部次長が「政権批判『改憲封じ』見え隠れ』を書いている。

「10年前の夏とどこか似ていないか――。加計学園問題などをめぐる政権批判が吹き荒れる中、東京都議選は2日に投開票が行われ、小池百合子都知事率いる都民ファーストの会が躍進、自民党は惨敗した。築地市場移転など都政課題はまともに論じられず、なりふり構わぬ政権批判が続いたのはなぜか。その裏には、安倍晋三首相を退陣に追い込み、憲法改正を封印しようとの思惑が透けて見える。

<参院選で大敗>

10年前の平成19年7月、第1次安倍政権下で行われた参院選で、自民党は改選議席64を37に減らす歴史的大敗を喫した。安倍首相は持病の潰瘍性大腸炎を悪化させ、2カ月後に退陣した。ここで生じた衆参ねじれは深刻な政治混乱を招き、21年夏に民主党政権を誕生させる遠因となった。

自民党が大敗した原因は何だったのか。内閣支持率下落のきっかけは19年5月、事務所費問題で追及されていた松岡利勝農林水産相が自殺したことだった。後任の赤城徳彦農水相にも事務所費問題が発覚したほか、久間章生防衛相の『原爆投下しようがない』発言などが相次ぎ、参院選直前の内閣支持率は30%前後まで急落した。

今年の通常国会も春先から奇妙な風が吹き荒れた。学校法人『森友学園』(大阪市)の国有地払い下げ問題に続き、学校法人『加計学園』(岡山市)の獣医学部新設をめぐる問題が直撃した。いずれも首相の直接関与を裏付ける証拠は出ていない。それだけに首相らは『一体何が問題なのか』とタカをくくっていたようだが、それがあだとなり、対応は後手に回った。

加えて、自民党の豊田真由子衆院議員(離党届提出)の暴言事件など不祥事が相次いだ。都議選中盤にも稲田朋美防衛相の『自衛隊としてもお願いしたい』発言などがあり、野党とメディアは猛批判を続けた。

有権者の多くは『自民党にお灸をすえねば』と思ったのだろう。国政の不祥事で都議会がお灸をすえられるのは筋違いだが、1カ月前の各種世論調査では「自民党と都民ファーストは拮抗」と予想されただけに都議会自民党があおりを受けたことは間違いない。

<首相、慢心戒めを>

10年前と酷似しているのは、政府・自民党の不祥事だけではない。憲法改正がキーワードとなっていることに着目すべきだろう。

10年前の19年5月14日、第1次安倍政権は、憲法改正手続きを定める国民投票法を成立させた。これを機に野党・メディアの政権批判はボルテージを上げた。

今年5月3日、首相は憲法9条に自衛隊を明記して改憲し、32年に新憲法を施行する政治日程も掲げた。その後、秋の臨時国会に自民党改憲案を提出すると表明した。

護憲勢力は10年前以上に強い危機感を持ったのではないか。5月以降、一部メディアは『倒閣』の意思さえ隠さぬようになった。ただ、10年前と決定的に違う点がある。

都議会は巨大ではあるが地方議会にすぎない。衆院の任期満了(30年12月)は1年半も先であり、政権が態勢を立て直すには十分な時間がある。

躍進した都民ファーストの会は地域政党にすぎない。将来国政進出を目指す可能性はあるが、時間を要する。国政で野党第一党である民進党も惨敗しており、都議選の結果を『安倍政権にNO』と、判断するのは、短絡的すぎよう。

日本経済も順調だ。景気拡大は『いざなぎ』などに続く戦後3位の長さに達した。5月の有効求人倍率(季節調整値)は1・49倍となりバブル期を超えた。アベノミクスは着実に成果を出している。

とはいえ、楽観はできない。都議選中に繰り広げられた政権批判の本音が『改憲阻止』にあるならば、改憲論議が本格化する秋以降、ますます先鋭化する公算が大きいからだ。首相は慢心を戒め、より説明責任を果たす必要がある。さもなくば憲法改正は『見果てぬ夢』となりかねない」。

都議選の結果は「安倍政権にNO」とはなっていない。都民ファは地域政党にすぎず、野党第1党の民進党は5議席と惨敗しているからである。問題は、来年9月以降に予想される衆院選と国民投票のダブル選まで護憲勢力である左派メディア・野党との熾烈な思想戦・情報戦が続くことである。改憲勢力である自民党支持層の思想武装が急務となる。

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