2016年5月17日 産経「正論」 山田吉彦・東海大学教授「アジア海域安保に主導権発揮を」

「中国の脅威に対するG7の統一戦線を」

産経の「正論」に、山田吉彦・東海大学教授が「アジア海域安保に主導権発揮を」書いている。

<イスラム過激派とつながる海賊>

アジアの海洋情勢が一段と混迷を深めている。ソマリア沖の海賊の動きは、日本の自衛隊の派遣など、国際的な海賊対策が功を奏し沈静化したが、昨年1年間に全世界的で報告された海賊事件は246件に上っており、そのうち東南アジア海域では174件が発生している。

フィリピン南部スールー諸島のマリンリゾート、サマル島にあるホテルがイスラム過激派アブサヤフに襲われ、カナダ人など4人が拉致される事件が起きた。犯人は約800万ドルの身代金を要求したが、4月25日、カナダ人男性の切り落とされた頭部が見つかった。残るカナダ人、ノルウェー人、フィリピン人の3人は拉致されたままだ。

またアブサヤフは3月にスールー諸島沖海域で石炭運搬船を襲い、10人のインドネシア船員を人質に取った。続いて4月にも、4人にインドネシア船員を誘拐するなどの事件を起こした。

今月、いずれも船員は解放されたが、アブサヤフが海上に進出したとなると、単なる海賊事件では済まない。今後、南シナ海において海上テロが発生する可能性が高い。

アブサヤフは過激組織『イスラム国』(IS)とも連携していることが指摘されている。過激組織の資金を得るために海賊行為が頻発し始めたようだ。

国際的な海賊対策を行う国際商業会議所国際海事局(IMB)の海賊リポートセンターは、南シナ海に海賊警報を発令している。南シナ海を通過する日本船も危険にさらされているのだ。

<領有権争いに新たな問題も>

米国は、中国が軍事拠点化を進める南シナ海海域に駆逐艦を派遣する『航行の自由作戦』を展開している。

しかし、中国の一方的な行動はとどまるところを知らない。ファイアリークロス礁を埋め立てて建設した人工島に最近、軍用機を離着陸させたことが確認された。また、フィリピンに近いスカボロー礁でも、埋め立てに着手するとみられている。

加えて、アジア海域の情勢を複雑化する新たな事態も生まれている。台湾の馬英九総統が、沖ノ鳥島海域で不法操業をしていた台湾船が日本の海上保安庁に拿捕されたことに対し、同島は排他的経済水域(EEZ)の基点とはならない『岩』であると主張。同島周辺海域に海岸巡防署の警備船を派遣する措置をとった。これは日本の主権への挑戦であり、看過できるものではない。

日本は馬総統の提唱する『東シナ海平和イニシアチブ』に譲歩し、日台漁業取り決めを結び、尖閣諸島周辺海域において一部台湾漁船が操業できる環境をつくり、感謝されている。それが馬総統の任期終了間際に、日台間の感情を悪化させるような問題を作り出したのだ。

一方、南シナ海においては、フィリピンが領有権をめぐり中国を相手取って起こしている常設仲裁裁判所への申し立てに対し、『スプラトリー諸島には台湾も管轄権がある』とする陳述書を提出した。主張したのは、馬総統がかつて代表を務めていた国民党政権に近い民間組織『中華民国国際法学会』だ。

この陳述書が受理されたため、今月中にも最終的な裁定が下されるとみられていたが、延期となる可能性が出てきた。中国にとっては問題を先送りできるうえに、台湾が新たに加わり、同諸島の領有権を主張してくれることになる。中国の主張においては台湾も『中国の一部』なのだ。民進党の蔡英文氏は、国民党の“置き土産”により、5月20日の総統就任式早々、複雑な問題に取り組まなければならないことになった。

<議長国・日本の手腕が問われる>

南シナ海問題の解決に向け、主要国首脳会議(伊勢志摩サミット)では、いかに具体的な議論がされるかが注目される。東南アジア諸国連合(ASEAN)は         拘束力をともなった『南シナ海行動規範』の策定に向けて、先進7カ国(G7)の後押しを期待している。国際法を無視し続ける中国、さらにイスラム過激派による海賊事件が多発しているため、すぐにでも『航行の自由作戦』の枠を拡大し、他の関係諸国も含めた海上行動が求められよう。

サミットの議長国である日本は、アジアの海洋秩序を守るために具体的な戦略を提案しなければならない。ソマリア沖の海賊対策のように、各国が連合して艦隊を組織し、監視にあたることも有効である。

アメリカは大統領選挙期間に入り、アジア海域への影響力の行使が停滞することが予想される。また、G7の多くは遠く離れており、当然、アジア海域における海洋安全保障は日本が中心とならなければならない。サミットの主要議題としてアジアの海洋安全保障を話し合い、共同宣言にアジアの海を守る具体的な解決策を盛り込むべきだ。それが議長国であり海洋国家・日本の使命である」。

コラムの結語である「サミットの主要議題としてアジアの海洋安全保障を話し合い、共同宣言にアジアの海を守る具体的な解決策を盛り込むべきだ。それが議長国であり海洋国家日本の使命である」は、正論である。安倍晋三首相が、5月25,26日の伊勢志摩サミットで、主要議題としてアジアの海洋安全保障を俎上に載せ、アジアの海洋秩序を守る具体策を提起し、共同宣言に盛り込むべき責務がある。G7の先進国でアジア代表は日本のみであるからだ。

問題は、「中国の脅威」に対してG7の7カ国が統一戦線を組めるのか、である。ロシアのクリミア併合に対しG7が統一戦線を組んだように、である。親中的な英国、ドイツの説得がカギとなる。共同宣言に「中国の脅威」に対しての統一戦線が盛り込めれば、7月の衆参同日選での与党の追い風となるが。

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