2016年1月4日 朝日の社説に「分断される世界」「連帯の再生に向き合う年」

「憲法改正の年」

朝日の社説に「分断される世界」「連帯の再生に向き合う年」が書かれている。

「地球が、傷だらけで新年を迎えた。民族や宗教、経済、世代……。あらゆるところに亀裂が走っている。国境を超越した空間を意味するはずのグローバル世界は今、皮肉なことにたくさんの分断線におおわれている。

それを修復するために、和解を進め、不公平をなくし、安心できる社会を実現する――。それこそが指導者の使命であろう。だが、むしろ社会の分断につけこむ政治家や宗教者、言論人も登場し、しばしば喝采を浴びている。

他方、亀裂を埋めて新しい連帯の形を探す。そんな動きも出ている。たとえば昨年末、パリでの国連気候変動会議(COP21)で、各国は地球温暖化対策で新しい枠組みに合意した。それぞれの思惑を超えた真の解決に向けて結束した。新年の挑戦は、連帯と共感の危機にひとつひとつ向き合うことから始まる。

<溝を深める政治>

『イスラム国(IS)』は、狂信的な教義を掲げて人々の分断を謀る過激派組織だ。支配地域で従わない人々を隷属化し殺害するだけではない。ほかの宗教や文化を憎悪の対象にしてイスラム教徒との間に深い溝を作ろうとしている。

その刃を向けられた側は、どう応えようとしているか。欧州では、中東からの難民やイスラム系移民層への警戒感が急速に強まった。フランスなどで、排他的な右翼政党の支持が高い。米国では共和党の大統領候補選びで『イスラム教徒を入国禁止に』などと放言し続けるトランプ氏の人気が衰えない。

分断に分断で対抗する。敵対し合っているはずの勢力が、世界を分断するという点では奇妙に共鳴し合っている。

経済的な不平等の拡大による社会の亀裂も深刻化している。経済協力開発機構(OECD)の昨年の発表によると、2013年に、大半の加盟国(34カ国)の所得格差が過去30年で最大になった。また、資産は所得以上に富裕層に集中しているという。

フランスの経済学者ピケティ氏は、世界的に注目された大著『21世紀の資本』のなかで、あまりに富の集中が進んだ社会では、人々の不満を強権で抑えつけるなか、革命が起きるしかなくなる、と不平等がはらむ危険を指摘している。

日本もこうした多くの亀裂を免れているわけではない。世界で数千万にのぼる難民の受け入れという点で積極的な国とは言えない。そこに連帯の危機への問題意識は低い。

<「同胞」意識の迷走>

経済的な不平等についても例外国ではない。それどころか所得格差はOECD平均を超えて広がっている。子どもの貧困率や雇用の非正規率も上昇している。かつての平等な国の姿はすっかり遠くなった。にもかかわらず、社会保障と税の一体改革もままならず、この国の社会的連帯は弱まるばかりだ。

沖縄の米軍基地問題も日本に分断を生んでいる。県民の多くが本土に求めるのは、一県には重すぎる負担の分担だ。『同胞』から『同胞』への支援要請である。

しかし本土の反応は冷たい。政治は問題を安全保障をめぐる党派的な対立の構図に還元してしまう。そこに『同胞』への共感と連帯をもたらす本来のナショナリズムは、見る影もない。

『包摂』より『排除』に傾くナショナリズムは、ポピュリズムと同様に社会を統合するより分断する。

克服には何が必要だろうか。COP21の合意は、自分の負担を避けようとするだけでは、問題のほんとうの解決にはつながらないと、各国の間で実際的な考えが共有された成果ではないだろうか。

また、経済の視点から社会の分断を考察した『経済の時代の終焉』で大佛次郎論壇賞に決まった慶應義塾大学経済学部の井手英策教授も、実際的な考え方の重要性を指摘する。

教授によると、日本では中高所得層と低所得層の間に溝ができ、人々の間の共感が消滅しつつある。修復には理念ではなく『お互い助け合った方が得をする、自分も受益者になる、幸せになるという視点が必要だ』と話す。

理念より実際的な解決への理解を広める。連帯や共感の再生への取り組みを可能にするための重要な手がかりではないか。

<民主主義壊れる前に>

社会の分断は民主主義にとって脅威だ。『私たちみんなで決めた』という感覚がなければ、人々は政治的な決定を尊重しようとはしなくなる。そしてそれはさらに社会を細分化する悪循環を招く。

私たちの社会が抱える分断という病理を直視し、そこにつけ込まない政治や言論を強くしていかなければならない。民主主義さえも台無しにするほどに深刻化する前に」。

社説の結語である「民主主義壊れる前に」異論がある。

民主主義を壊しているのは誰かが、抜け落ちているからである。中国の脅威とテロ戦争である。世界全体の分断を加速している元凶がこの2つだからである。いずれも、自由、平等、法の支配という民主主義の価値観の全否定を目論んでいる。民主主義の敵であるから、対中国、対テロとの戦いにおいて、世界の民主主義各国は、米国を軸にして、連携と連帯を広げることが急務となる。

問題は、日本が世界第3位の経済大国、米国の同盟国として、その先鋒に立つべき責務があることだ。安倍晋三政権が、昨年9月の安保法制成立、11月の環太平洋経済連携協定(TPP)締結は。その一環である。今年の1月1日、日本は11回目の国連安保理の非常任理事国に、5月には、日本主要国で5回目の首脳会議(伊勢志摩サミット)が開催される。安倍晋三首相が、7月の参院選で、戦後民主主義の規範である現行憲法の改正発議に必要な与党で3分2以上の議席を確保することを目指すのは必然となる。民主主義を守り、再生するために、である。

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